「知ることにより変わる・変えられる」を理念に国内外の良質な映画を毎⽉お届け
MOVIE- 知ることにより変わる・変えられる-
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SNS、未曾有の⻑寿社会、家⽗⻑制や終⾝雇⽤制度の崩壊、多様なジェンダー・アイデンティティやセクシュアリティの可視化、顕著になったリプロダクティブ・ヘルス/ライツの貧困、そして、新型コロナウィルス……現代は前例のないことだらけ、ロールモデル不在の時代です。だからこそ、私達は⾃分のいる社会や世界をもっとよく知ることで、新しい⽣き⽅をデザインしていけるのではないでしょうか。「知ることにより変わる・変えられる」を理念に国内外の良質な 映画を毎⽉お届けしていきたいと思います。
国連の近年の報告書によると、ファッション業界の廃水排出量は全世界の20%に達しているそうだ。それだけではない。ファッション業界からの二酸化炭素排出量は、飛行機の国際線や海運業界の排出量を上回り、全排出量の10%を占めている。(※1)
このペースでいくと、2050年までには世界の温室効果ガス排出量上限(カーボンバジェット)の4分の1が消費されるという。人口密度が高い都市のひとつである香港は、消費者の無限の購買欲求と、中国の廃棄物輸入停止により、毎年、ファッション廃棄物が埋立地に向かっている。(※1)
この課題に対処するため、ファッション業界の改革に取り組む香港の起業家3人の姿を記録したドキュメンタリー『リファッション~アップサイクル・ヤーンでよみがえる服たち』が、6月9日(金)に公開される。
本作は、ヘルパーとして香港の家庭を支える東南アジア人女性労働者の苦しみを綴ったドキュメンタリー『The Helper』に続く長編映画として、ジョアンナ・バウワーズ監督が手掛けた作品だ。プロデューサー、撮影監督、作曲家、グラフィック・サウンドデザイナーを含む女性クリエイターが中心になって制作した、香港では珍しい女性作品である。
1人目は、HKリタ(Hong Kong Research Institute of Textiles and Apparel)のCEOのエドウィン・ケー。彼は、HKリタと呼ばれる「香港繊維アパレル研究所」を率い、「衣類から衣類へのリサイクル・システム」を発表。水や薬品を使わずに廃棄衣料から新しい衣料を生み出すことに成功した。日本の島精機製作所も機械を提供している。
2人目は、子供用の古着やおもちゃなどを、従来の数分の1の価格(最大90%オフ)で販売している、RETYKLE(リタイクル)の代表サラ・ガーナー。元ファッションバイヤーだが、次から次へと新作を発表し、新作をすぐに廃棄物にしてしまう既存のファッション業界に疑問を抱き、起業した。
3人目は、VCYCLE(Vサイクル)代表のエリック・スウィントン。ペットボトルやプラごみの回収箱の設置と回収を行い、掃除員として低賃金で働く高齢者に適切な給与を支払って雇用する取り組みも行っている。
繊維、テキスタイル、ファッション業界に“循環型経済”という文化の転換を持ち込もうとする彼らの道のりが丁寧に描かれている本作。この3人がもつ未来のビジョンは、香港のファッション業界に新しいムーブメントを起こしているという。本作をより深く理解するために、ファッション業界、とりわけ近年のファストファッションに対する批判を説明しよう。
第一に、アパレル製品は環境負荷が高く、天然資源を消費する。特にファストファッション
は、安価な衣服の大量生産に依存しており、水、エネルギー、化学物質などの原材料を大量に消費する。これは、天然資源の過剰消費と枯渇の原因となる。
第二の影響は水質汚染。繊維の染色や仕上げの過程で、有害な化学物質を含む大量の排水が発生し、適切な処理が行われないまま水域に放出されることが多く、水質汚染や生態系の破壊を引き起こしている。
第三に、化学物質の使用。石油を原料とする合成繊維が使用された衣服は、化学処理を必要とする。生産と廃棄の過程でこれらの化学物質が放出されると、環境と人間の健康の両方に害を及ぼすかもしれない。
第四に、本作のテーマでもある廃棄物。近年のファッション界は安価で使い捨ての衣服に重点を置いているため、廃棄物の発生が多い。衣服は頻繁に廃棄され、埋立地や焼却に回されるため、大量の繊維廃棄物が発生し、汚染や温室効果ガス排出の原因となっている。
環境汚染を引き起こすと批判されるファッション業界だが、労働者搾取もときおり報じられているのは皆さんもご存じだろう。(すべての繊維・テキスタイル・アパレル会社が労働者搾取をしているわけではない)
まず、低賃金と劣悪な労働環境がある。とりわけファストファッションは、労働コストの低い国への委託生産をすることが多い。これは労働者の搾取につながる可能性があり、労働者は低賃金で、安全でない環境で働き、十分な福利厚生や保護がないまま長時間労働に耐えている可能性がある。
次に、労働者の権利の欠如が考えられる。ファストファッションのサプライチェーンで働く多くの労働者は、特に貧しい国々で、自分たちの権利を擁護するための組合が存在しなかったり、加入できなかったりしている。そのため、不当な労働環境で働いている場合もある。
また、不安定な雇用も問題視されている。ファッションのライフサイクルがどんどん短くなっている上に、安価な製品への需要が、非正規労働の衣料品労働者に不安定な雇用をもたらす。
さらに、ジェンダー不平等や高齢者の低賃金労働もある。ファストファッション産業で働く衣料品労働者の大半は女性であり、不平等な賃金、セクハラ、キャリアアップの機会の制限など、差別やジェンダーに基づく搾取に直面することが多い。
映画内でも見るように高齢化社会の香港では、貧困層の老人が低賃金労働に従事することが多い。映画によると、香港の街を掃除する清掃労働者の8割以上が60歳以上、3割以上が80歳だという。
こういった問題に対処するためには、ファッションブランド、消費者、政府、支援団体を含む様々なステークホルダーの集団行動が必要だ。フェアトレード、労働者のエンパワーメントプログラム、より持続可能なサプライチェーンの開発などの取り組みを通じて、持続可能なビジネスモデル、労働条件の改善、廃棄物の削減やエシカル消費をプロモートしていかなくてはいけない。
ジョアンナ・バウワーズ監督は「ファッション業界による環境破壊の規模に圧倒されて無力感を感じることは簡単ですが、一人ひとりが自分なりの方法で行動を起こすことが、本当に大きな影響を与えることにつながります」と海外インタビューで述べている。(※2)
プロデューサーのケイト・フレミング・デイヴィスもこう語る。「誰もが少しでも環境に配慮することを選択すれば、それは正しい方向への一歩となります。この映画を作ったことで、ファッションに対する考え方が変わりましたし、自分自身や家族の衣服選びにも影響を与え続けています」。(※2)
「新しく形作る、新しくする、改造する」の意味がある“リファッション(refashion)”。環境に対する責任を持ち、倫理的な消費行動をとるーー。これこそが、次世代に継承すべきファッションではないだろうか。
『リファッション~アップサイクル・ヤーンでよみがえる服たち』
2023 年6 月9日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、アップリンク吉祥寺で公開決定
配給・宣伝:アップリンク
©CHEEKY MONKEY PRODUCTIONS ASIA LTD 2021
公式サイト:https://www.uplink.co.jp/refashioned/index.html
【参考】
※1……映画プレス資料
※2……ReFashioned: New Hong Kong Documentary Spotlights Circular Fashion Pioneers – green queen
2023.6.9 UP