Newbe(ニュービー)が注⽬する起業家やクリエイターをゲストに迎えたインタビューコンテンツ

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PROFILE土井地 博(どいじ・ひろし)
第三弾は、日本のセレクトショップの草分け的な存在として、常に業界を牽引するBEAMS(ビームス)で20年以上のキャリアを持ち、グローバルアライアンス部 執行役員 兼コミュニケーションディレクターという異質な肩書きを武器にラジオパーソナリティ、大学講師、司会業など日々挑戦の幅を広げる土井地博さんが登場。現在はBEAMSの他に、株式会社BE AT(ビーアット)代表取締役、株式会社 社外取締役の共同代表も務め、新しい働き方の形を模索し続ける彼のこれまでの軌跡や未来を語るコトバから、その瞳に映る世界を覗いてみよう。

Episode.03

まず最初に、土井地さんのお仕事について教えてください。

BEAMSに入って23年目。現在は、コミュニケーションディレクターという肩書きで、社外の方々と企業、団体、地方自治体、個人、デザイナーなどいろんな表現をされる方をBEAMSとマッチングしたり、企業と企業、企業と人を僕を介して形にするということもやっています。GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoftの米国巨大IT5社)に代表される世界屈指のIT企業から、ソニー、トヨタ、ファッションブランドも含めてその流れを作る立場です。そのほか、グローバルアライアンスという国内外のカンパニーブランドとアライアンス契約を行う担当役員も兼任しています。いちブランドとして海外での認知をさらに広めるために、単純にお店を出すとか卸しを増やすというところではない、海外の企業との取り組みなど、シンプルにいえばグローバル化に力を入れている部署になります。

土井地さんはBEAMSでの肩書きの他にも、いくつかの顔をお持ちですよね?

今年に入ってから、株式会社BE ATの代表と株式会社社外取締役という会社の共同代表もやっています。これが基本的に自分の仕事の軸。あとは講演とかラジオパーソナリイティとか、司会業やったりとか学校の先生とかなんか色々やっていますね。

未来学?

アメリカ西海岸はやっぱりずっとビームスの原点でもあるし、GAFAMの企業はみんな西海岸にあります。GoogleやApple、Amazonといった最新のテクノロジーの進化とともに我々の生活も全部変わっていった。昔から脈々と残っているウエストコーストのカルチャーとテクノロジーというのは絶対に学ぶべきものがあると信じ、それらの企業の動きを見て、学んでいくことで、いかに我々の経験と将来何をやりたいかという目標を重ね合わせることがカルチャーを作っていくんだろうなという話をずっとしていたんです。そこから、全ての表現者が社会実装として成り立つような仕組みを作ろうと生まれたのがBE ATです。一昔前までは、すごい才能があるとか、破天荒といった人がクリエイションをリードしてきたし、そういった素質がないとクリエイティブな仕事で上を目指すことができなかった。音楽業界だって、ストリートからインディーズでデビューして、メジャー、オリコン、紅白と長い道のりが必要だったのが、今ではTiktokで注目されたアーティストがその年の紅白に出場したり、ライブをしたことのないYouTuberの曲がすごい売れていたりする。テクノロジーの進歩や発展とともに、さまざまな方法やアプローチで全員が表現者になれる時代になってきたと思うんです。

確かに数年前と比較してもすごく変化していますね。

もっとシンプルにBEAMSとしてできることってなんだろうと考えたときに、それらの表現者たちと一緒に東京を面白くしたり、世の中を変える仕組みを作ることなんじゃないかなと。さらには、「TOKYO」だけでなく、「KYOTO」、「NEW YORK」……と、このシステムを世界中に拡張していけたらと思っています。そのシステム自体を一言で言うと、「発掘」「掛け算」「物語」ということ。50年前の原宿って代表的なアパートが三つあったんです。同潤会アパートとセントラルアパート、そしてコーポオリンピア。昭和39年の東京オリンピックが終わった後に、選手村とかメディアセンターに使われていた場所にいろいろな人が住んで、住人同士で集まっては、「こんな東京にしたいね」とか「こんな原宿にしたいね」、「こんな世界で挑戦したいよね」という彼らの会話がカルチャーを生んでいった。まさに、カルチャーのアパートメントだったんです。まさに、そんな役割を果たす場所にしたいと思って作ったのが、ラフォーレ原宿の6階にある「BE AT STUDIO HARAJUKU」と「BE AT TOKYO」のウェブサイトです。オリンピックを迎えた今年、カルチャーのアパートメントをオフラインとオンラインの両軸で作りたいなと。

「BE AT STUDIO HARAJUKU」は具体的にはどのようなスペースなのでしょうか?

ここでは、「LIVE」「GALLERY」「EVENT」「WORK」「SHOP」といったコンテンツをウェブサイトと連動してリアルで展開しています。ラジオの公開収録を行ったり、商品を売ったり、大学とか学校法人と組んで授業を行う日もあります。このコミュニティスペースを通じて、学校を卒業しても仕事がないとか、才能があってもまだ表に出ていないという人をフックアップして、横の繋がりでもっと増幅させていきたいなと思っています。

BEAMSで長年行ってこられた、人とブランドを掛け合わせるということからさらに枠を広げて、個々の力を繋いでいくような形になっているのですね。

BEAMSの屋号をとっぱらったことでもっと自由に、柔軟な動きを作れると思っています。いろんな角度で、さまざまな才能の点と点を線に変えて、立体にして造形物にしていくというようなプロセスで新しい東京というブランドを発信していきたいです。

オリンピックも終わった今、これからのBE ATのミッションやビジョンはどのように描いていらっしゃますか?

ミッションは会社を立ち上げた理由と変わらず、普遍的に今も10年後も20年後も全ての表現者が生きていける社会にしたいということです。ビジョンで考えると、それを日本に限らずいろんなところに作っていきたいというのがひとつ。今はみんな “主” と “副” みたいな考え方を持っていると思うんです。自分のベースがあっての、副業やセカンドキャリアとか。今まではOL、サラリーマン、個人事業主といった肩書きをひとつ持つというのがほとんどだったけれど、自分をもっと挑戦させたいという理由で、別の仕事をしたり学校に行ったりするようになった。この働き方がどんどん広まっていくと “主” も “副” もなくなってくると思うんですよ。いろんな人がマルチに動くことで、自分の価値観にも繋がってくるので、そういった動きを下支えできるような活動を自分の中で今後のビジョンにしたいなと強く思っています。

BEAMSでの経験も含めて、これまで大きな壁や挫折を感じるような出来事はありましたか?

基本的にあまり落ち込まないんです。相性の合う合わないとかはあるけど、好き嫌いとかもなくて、人や物事に対して壁と感じるというよりは失敗があって当たり前だし、失敗したことで学ぶことも多いので、あまりそういうことは考えないですね。失敗しても死なないですからね、極論で言うと。

学びになったと前向きに捉えることが習慣になっていらっしゃるんですね。

社長にプレゼンしてダメでしたとか、人によっては挫折や壁に感じることもあると思うんですけど、たかだか星の数だけある企業の中の一部屋での話で、もっとスケールの大きいことの方が楽しくないですか?と思っちゃいます。野球を知らない人でも大谷選手の爽やかさと連日の報道ニュースを見るだけで朝から頑張ろうって思っちゃうじゃないですか。なんかそういったものから毎日刺激を受けているといろんな意味で、あまり小さいことを気にしなくなるのかなと思います。

土井地さん流の問題解決や働き方のメソッドってありますか?

わかりやすく言うとふたつあります。世の中って疑問に対して答えを導こうとか、答えはなんだっけというのを考えがちなんですけど、多様化した現代では答えって実はないんですよ。自分たち作っていくものだから。僕は、Qに対してのAという時代は終わって、「?」に対しての「!」(びっくりマーク)だと考えていて、面白いものってそもそもそういった疑問すらないんじゃないかなって思うんです。気になるものに対しては、「あ、なるほどそうきたか」というふうに物事を見るようにしています。もうひとつは、何か新しいことを起こしたい時には、さまざまな個性をアルファベットとして捉えて考えるということ。アルファベットの数は26個。それぞれ個性があるとしたら、3人集まって、AさんとTさんとRさんを集めると「ART」というひとつの言葉になります。「MAKE」とか、もう少し集めて「LIFESTYLE」でもいい。多様化が進むにつれて、みんなAになれとか、Bらしくしろというのは難しくなっていますよね。教育も昔は質問に対して答えがあったからみんな同じ答えだったけど、今はみんな違う。だからこそ、AからZまであってもいいと思うんです。それをどう並び替えるか、どういう意味合いを持たせるか、それが集まるとひとつの文章になるじゃないですか。そこから物語となって一冊の本になっていく。その個のかたまりを並び替えて整えたり、文章にしていくことで社会にどう、何を伝えていくかということを意識するようにしています。

土井地さんにとってプライベートと呼べる時間は、どういう時ですか?

大前提として、僕はあまりオンとオフって分けていないんです。人が好きだし、休みの時も会社のイベントに行ったり、後輩とかとどこかに行ったりするし。仕事が好きというよりは、いろんなものを見るのが好きなんです。ただ、時間というものをどういうふうに作っていくかということは考えるようにしていて、使っていくというのと作っていくというのでオンとオフというふうに分けているかもしれません。使っていくというのは仕事的な要素。限られた就業時間の中でみんなと会社にいる時間とか、与えられた時間内に何をやっていくかという。作っていくというのは、早起きしてゴルフにいくとか、サウナにいくとか、自分なりにある程度作り上げていくもの。それはもちろん仕事でもプライベートでも両方の要素を持つこともあるんですけど、なんとなく動いて休むというよりは、時間というものを生活として置き換えて考えていくことが多いかもしれないですね。

その表現はわかりやすいですね。

あと、この間たまたま大分出身で福岡にも家を持ちながら、東京ベースで仕事をしているという方と出会ったのですが、その方が言うには、時間の倍速感覚が東京が2、福岡が1、大分が0.7という感じなんだそうです。土地ごとの環境速度も違うだろうし、大分とかだと夜中まで開いていたりするお店も少ないから、自然と寝る時間も長くなる。この時間の速度の捉え方はわかりやすいなと思いました。なんにでも微妙にグラデーションがかかっていて、これは仕事です、これはプライベートですって区切れないんですよね。いろんな意味で。それが楽しいし、ダメじゃないし、嫌じゃないなと思っています。

趣味も多く興味のあることがたくさんあると思うのですが、土井地さんが次にチャレンジしたいことはなんですか?

今徹底的にハマっているのはカメラとゴルフ。もうちょっと極めたいから次はまだ見えないのですが、挙げるとするなら料理ですね。18歳から一人暮らしもしていたはずなのに料理は一切やらないし、できないんです。プロダクトとしての美しさから調理道具や器といったものは昔からたくさん持っているんですけどね(笑)。

勝手にお料理上手なイメージがありました。アウトドアとかでもささっと作っちゃうような。

すごい言われます。美味しいご飯を食べることが好きだし、食材も好きなんですけど。

料理好きになる要素が全部揃っていますね!。

どちらかというと色々詳しい方だと思います。なぜやらないんだという話ですよね。本当に料理は近いうちに有言実行したいですね。

土井地さんのインスタでお料理の写真が上がってくる日が楽しみです(笑)。この先の未来の話で、SDGsといった言葉なども広まっていろんな社会問題が提起されていますが、土井地さんが気になっている問題は何かありますか?

身近なところでは、アパレル業界の観点や概念、目線といったものを変えていかないといけないなと思っています。設楽ともよく話しているのが、僕らが欧米の国々に憧れていたように、世界が日本を注目している中で、もっと伝統工芸しかり、先人が作ってきた手法やアイデアも含めて僕らが日本を伝えていかないといけないよねということ。そういった流れで5年前に作ったのが、「BEAMS JAPAN」というレーベルです。改めて浴衣や着物といった日本の伝統的な装いをみてみると本当に無駄がないんですよね。基本的にワンサイズで作られていて、着る人が胴回りでサイズを調整して帯を巻いて背丈を合わせるとか、洋服の裁断をする場所がほとんどなくて平面で作っているので、廃棄される部分も少ない。このような先人の素晴らしいアイデアや技術といったすでに存在しているものを、どのようにこれからのアパレルに落としていけるかということはずっと考えていることですね。

すでに会社単位で取り組んでいらっしゃるのですね。

そうですね。もうひとつ、「BEAMS COUTURE」というブランドもここ数年で新たに立ち上げたレーベルです。これはBEAMSの倉庫に眠るオリジナル商品のデッドストック品を中心に、手仕事によるリメイク手法を用いて、新たな価値を持った1着へと甦らせるブランドです。本来、廃棄やセール化して原価割れしてしまうような商品にアイデアを加えることで、価値をどのように上げていくかというのをミッションとしています。実際に、デザインとアイデアって本当に世の中を変えていきますしね。そういう新たな発想で世の中を変える天才はいっぱいいる。一人じゃできないけど、違うDNAや遠いところにあるDNAを呼んでくるとものすごく強いものが生まれたり、魅力的なものが生まれるということは今もこれからもやっていきたい。僕がやるのは、目の前のことをいろんな人との会話や協調をしながらインプットして、しっかりアウトプットする作業。文章だけを読んでも分からないし、人によって解釈も違う。これはダメなの?するななの?みたいなことも人によってあるじゃないですか。だから、常に新しい情報や面白い情報を他者と会話して、適切にインプット、アウトプットをしていくことは本当に大事だと思います。人間は今日よりも明日の方が進化しているはずで、今日学んだことを明日違う形にすれば、きっと未来もよくなっていくはず。それができたらなと思います。

 

Interview & text Mikiko Ichitani Photography Eriko Nemoto

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Mikiko Ichitani
市⾕未希⼦(いちたに・みきこ)
1989年⽣まれ。美容専⾨学校卒業後、都内の美容室にて7年間勤務。2017年にWEBのファッションメディアの編集者へ と転向。前職の経験を活かし、美容特集の企画・編集にも携わるほか、クライアントへの提案や、制作案件の進⾏など 様々な業務を担当。2021年独⽴し、フリーランスとしてさまざまな形で編集に携わる。

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